企業と法務 - 22.企業活動 - 2.OR・IE - 4.ゲーム理論

Last Update : January 02 2021 16:00:51

     

a. ゲーム理論

一定の制約やルールに基づいて、複数の行動主体(プレーヤー)が相互に影響し合う状況をゲームと見なし、プレーヤー間の利害の対立と協力の関係を解明しようという応用数学の一分野のこと。
“必ずしも利害の一致しない関係者が複数存在する”という人間社会で一般的に見られる状況を“ゲーム”と考えて、ゲーム参加者相互の駆け引きを加味してそれら参加者の意思決定メカニズムを数学的に明らかにしようというのが、ゲーム理論である。他者の出方が自身にどのような影響を及ぼすか、逆に自身の行動が他者に行動や効用にどのような変化を与えるかを考慮しつつ、自身の利益を最大化あるいは損失を最小化する選択肢(最適戦略)は何かを分析する。
ゲーム理論の基本要素は、「プレーヤー」「戦略」「利得」の3つである。ゲームはプレーヤーの数によって「2人ゲーム/n人ゲーム(多人数ゲーム)」に分類したり、プレーヤーの戦略で相互に拘束力のある協力関係を認めるか否かで「協力ゲーム/非協力ゲーム」に分類したりする。また、ゲームの利得の総和が一定かそうでないかで「定和ゲーム/非定和ゲーム」にも分類できる。特に正負利得の総和がゼロになる定和ゲームをゼロサムゲームと呼ぶ。

ゼロ和2人ゲーム
2人のプレイヤーが、互いに勝ち負けを争うゲームを「ゼロ和2人ゲーム」と言う。碁や将棋、またチェスなどは、ゼロ和2人ゲームの典型的な例。ここで、プレイヤーというのは、必ずしも一人の人間である必要はない。単一の意思決定主体として行動する人間の組織を1個のプレイヤーとみなすこともできる。すると、サッカーや野球のように2チームが争うすべての球技や、2国間の戦争、また、賃金の上昇幅をめぐる労使間交渉などもゼロ和2人ゲームの例となる。「ゼロ和」という用語は、たとえば、勝ちを+1、負けを-1、引き分けを0という数値、つまり「利得」に置き換えて考えるとき、2人のプレイヤーの利得の和がつねにゼロ、または一定値となっていることに由来するもの。この意味でゼロ和ゲームを定和ゲームまたはゼロサムゲームと呼ぶこともある。

マクシミン原理 (マキシミン原理)】(maximin principle)
ゲーム理論における合理的選択の基準の1つ。ミニマックス原理(mini-max principle)ともいう。戦略(ゲームでの行動)を決定するに当たって、各戦略の結果で最も利得が小さい場合同士を比較して、その中から最大利得が可能な行為を選択する行動原理をいう。各選択肢の最小利得が最大になるものを選択する。
選択されうる戦略のそれぞれの場合について、最悪の場合の利得を考え、これが最大となる戦略を選択すること
ゼロサムゲームでは、利得を得るプレーヤー(利得の値を大きくしたい側)が、その最低限の利得を確保するための行動原理である。マクシミン原理によって選ばれる戦略をマクシミン戦略といい、それによって得られる利得をマクシミン値という。
マクシミン値は、相手プレーヤーが最良の手段(ミニマックス原理)を採ることを前提としたもので、相手がミスや錯誤によってほかの戦略を採用する場合、自身は利得をさらに大きくできる別の戦略があることになる。

マキシミン戦略とミニマックス戦略は利得で考えるか損失で考えるかの違いで基本的には同じもの。
マキシミン戦略=各選択肢の最小利得が最大になる選択肢を選択する手法。
ミニマックス戦略=各選択肢の最大損失が最小になる選択肢を選択する手法。

Ex.
企業Aと企業Bがそれぞれ2つの戦略のどちらかを採用する場合、 お互いの戦略の組み合わせによって、市場でのシェアは

  • A社が戦略a1、B社が戦略b1=A社がシェア40%、B社がシェア35%。
  • A社が戦略a1、B社が戦略b2=A社がシェア50%、B社がシェア25%。
  • A社が戦略a2、B社が戦略b1=A社がシェア30%、B社がシェア10%。
  • A社が戦略a2、B社が戦略b2=A社がシェア25%、B社がシェア30%。

という状況になります。
これを表にすると以下のようになります。

  B社
戦略b1 戦略b2
A社 戦略a1  40,  35  50,  25
戦略a2  30,  10  25,  30

A 社と B 社のそれぞれの場合のシェアは、次のようになる。
A 社は戦略a1の場合で最悪のとき、シェアは40%、戦略a2の場合で最悪のとき、シェアは25%になる。
B 社は戦略b1の場合で最悪のとき、シェアは10%、戦略b2の場合で最悪のとき、シェアは25%になる。
2社ともマクシミン戦略をとるので、A 社は戦略a1を選択し、 B 社は戦略b2を選択する。

マクシマックス原理 】(maximax principle)
選択されうる戦略のそれぞれの場合について、最もうまくいった場合の最大利得を考え、これが最大となる戦略を選択すること
上の例でいえば、
A 社は戦略a1の場合で最善のとき、シェアは50%、戦略a2の場合で最善のとき、シェアは30%になる。
B 社は戦略b1の場合で最善のとき、シェアは35%、戦略b2の場合で最善のとき、シェアは30%になる。
2社ともマクシマックス戦略をとるので、A 社は戦略a1を選択し、 B 社は戦略b1を選択する。

ナッシュ均衡
ナッシュ均衡とは、プレイヤー全員が互いに最適な戦略を選択しており、これ以上自らの戦略を変更すると、自分の利益が減る(もしくは無くなる)、つまり戦略を変更する動機がない安定的な状態になっている互いの戦略の組み合わせのことをナッシュ均衡といいます。

Ex.
企業Aと企業Bが同じ商品を新発売することになり、価格の選択肢として、互いに100円か110円のどちらかの戦略があるとします。 お互いの価格の組み合わせによって、市場でのシェアは

  • Aが100円、Bが100円で発売=お互いシェア50%ずつ。
  • Aが110円、Bが100円で発売=Aがシェア20%、Bがシェア80%。
  • Aが100円、Bが110円で発売=Aがシェア80%、Bがシェア20%。
  • Aが110円、Bが110円で発売=お互いシェア50%づつす。

という状況になります。同じ価格ならシェアは半々で、相手よりも安くなるとシェアを伸ばせます。
これを表にすると以下のようになります。

  B社
100円の時 110円の時
A社 100円の時  50,  50  80,  20
110円の時  20,  80  50,  50

a. 互いに110円で発売した場合
シェアは半々となりますが、自分が価格を下げると、シェアは80%にまで増加することがわかります。よって、A 110円、B 110円という状況では、お互いに値下げすることで利得が上昇するため、戦略を変更する動機が生まれて安定していません。よって、この組み合わせはナッシュ均衡ではありません。

b. 片方が100円、他方が110円の場合
現在すでに互いの価格に差がある場合、110円と値付したほうはシェアは20%しかとれず、相手に合わせて価格を100円に下げることによって50%までシェアを増加させることができます。また、価格が既に100円のほうは、110円に上げてもシェアは80%から50%に減少するため、100円という戦略を変更しません。よって、片方に戦略変更の動機が生まれており、この状況はナッシュ均衡ではありません。

c.両方が100円で発売した場合
シェアは50%ずつで、もし値上げをするとシェアは20%に落ちるため、互いに戦略を変えません。よって、A 100円 B 100円という組み合わせはナッシュ均衡と言えます。

要は、100円という戦略を選んでおけば、自らのシェアは50%(相手が100円の時)か80%(相手が110円の時)になり、相手がどちらの戦略をとっても、相手が自分よりも多くなるという組み合わせは存在しません、また、相手側の立場になっても同じことになるので、互いに100円という戦略を選択することが、純粋戦略ナッシュ均衡と言えます。

このように、この価格の例でのナッシュ均衡下では、シェアを50%以上にすることができません。要は負けない戦略であり、大きく相手に勝ち越すということはできません。

デシジョンツリー 】(decision tree)
意思や行動を決定するまでの条件をツリー状に表したもの。決定木とも呼ばれる。ひとつの条件に対して、Yesの場合とNoの場合それぞれの処理を記述する。
決定理論におけるディシジョンツリーは、一般のツリー(樹木図)と同様、根(root)から葉(leaf:分岐節・分岐点とも)が分岐する形で描かれる。分岐節には決定ノード、確率ノード、結果ノードがある。

□ 決定ノード(decision node)
意思決定者がコントロールできる変数や行動を示す。一般に四角で描かれる。行動分岐ノードともいう。
○ 確率ノード(chance node)
意思決定者がコントロールできず、他者・自然・偶然などによって決まる事象を示す。一般に円形で描かれる。シミュレーションを行う場合は、事前確率・主観確率によって表現する。機会事象ノード、偶然ノード、事象分岐ノードともいう。
_ 結果ノード終端ノード(terminal node)
結果価値を示す最終点。開いたリンク、あるいはしばしば三角形で描かれる。


  [ 例題 ] 
  1. 平成26年度秋期 問77  ナッシュ均衡
  2. 平成20年度春期 問77  マクシミン原理
  3. 平成18年度春期 問76  マクシミン戦略


     

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