サービスマネジメント - 15.サービスマネジメント - 1.サービスマネジメント - 4.SLA

Last Update : January 02 2021 16:00:38

     

a. SLA

SLA(Service Level Agreement)とは、情報システムの運用に際して、発注者(利用者)と受注者(提供者)の間で、提供するITサービスの内容と範囲、品質に対する要求(達成)水準を明確にして、それが達成できなかった場合のルールを含めて、あらかじめ合意しておくこと、あるいは、合意内容を文書化した契約書のことです。

SLAを行う時期
情報システム開発の受注者が、納品した情報システムの機能や性能について保証する場合と、納入後の運用を新たに契約する場合があります。そのため、受注者ごとにSLAを行うこともあります。
SLAは、運用段階に入る時点で行うのが適切です。企画段階や設計・開発段階の業務は、繰り返して行われないので、サービスの品質を継続的に測定することができないからです。しかし、情報システムのエラー発見率や応答時間などに関しては、情報システムの設計に大きく関係しますので、RFP(提案依頼書)に示したり、開発契約に明記することが必要な項目もあります。

SLAの必要性と効果
物事には完全を期待できません。十分にテストしたつもりでも、発見できない誤りがあります。ネットワークは、多様な原因により障害が発生します。これらの発生確率を低く抑えたいのは当然ですが、確率を下げる、すなわち、サービスレベルを上げるには、大きな費用がかかります。
どの程度のサービスレベルが適当かについて、発注者と受注者の間の合意がないと、トラブルの原因になります。そこで、委託者と提供者の間で誤解や不満が起こる原因であった曖昧さの排除を目的として、契約時に、双方の間でサービス品質の水準を明確にすることが必要なのです。
 SLAを行うことにより、

  • 発注者は、期待通りのサービスが保証され、権利が確保される。
  • 受注者は、提供責任を明確にし、これを全うしたことを証明できる。
  • 双方にとって、責任のなすりあいのようなトラブルになるのを回避できる。

などのメリットがあります。

SLA対象項目の選定基準
SLAの対象項目は、次の基準で選ぶことが必要です。

  • あまり多くの項目を対象にすると、管理が面倒になり、結果として効果が得られません。重要な項目に絞るのが適切です。
  • 稼働率が重要な業務もあれば、応答時間が短いことが重要な業務もあります。対象業務により、項目やレベルを変えるべきです。
  • 客観的な定量データが容易に得られる項目にするべきです。利用者へのアンケートなどは、主観的であり、定性的なので、せっかく入手しても解釈に違いが生じます。また、測定データを得るのに多大な作業を伴うものは、長続きしません。

顧客満足度を得るために必要な以下の項目について数値を示して提案する。

  1. 信頼性
  2. 保守性
  3. 可用性
  4. 性能
  5. データ保全性

例として以下のような項目がある。
・簡潔なサービスの説明
・有効期間及びSLA変更管理
・任されている詳細範囲
・報告を含む連絡の簡潔な説明
・緊急時に活動し、事故及び問題是正、復旧または次善策に参加する権限を与えられた人の連絡先
・サービス提供時間
・示すべき通知、期間あたりの回数を含む、予定及び合意による中断
・セキュリティなどの顧客責任
・セキュリティなどのサービス提供者の責務及び責任
・影響 / 優先順位の指針
・エスカレーション / 通知プロセス
・苦情処理手順
・サービス目標
・合意したユーザー数 / 作業量、システムスループットをサポートする能力など、作業量の限界
・料金コードなどの高レベルの財務マネジメントの詳細
・サービス中断時にとるべき措置
・事務処理手順
・用語録
・サポートサービス及び関連サービス
・SLAに記録した条項の例外

サービスレベルの設定
サービスレベルの設定には、次の2つがあります。

  • 目標保証型:受注者が責任を負うレベル
  • 努力目標型:努力はするが、責任までは問われない

また、目的保証型で達成できないときはペナルティを課し、努力目標型で達成したときにはインセンティブを与えるといった契約にすることもあります。
努力目標型では強制力がないのが欠点ですが、それでも双方でサービスレベルが明確になりますし、合意を得るのが容易です。


b. SLM

Service Level Management :サービスレベル管理のこと
SLA(サービスアグリーメント)の遵守状況の監視・評価を通じて、設定されたサービスの水準を維持・改善するための活動をSLM(サービスレベルマネジメント)といいます。
SLAを作成しただけでは効果がありません。

  • サービスレベルが定期的にモニタリングされ、
  • サービスレベルの状況と異常時対応などが定期的に報告され
  • 発注者と受注者がサービス改善に建設的な検討を行ない
  • 継続的に改善が行われる

これらのことをうまくマネジメントすることが大切です。
SLMのプロセスは「策定(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」というPDCAのマネジメントサイクルによって成り立っています。
効果的なSLMの導入により、ITサービス提供側においてはスタッフの障害対応に費やす時間と労力を削減できますし、顧客においてはサービス停止による事業の中断が削減できるようになるというメリットがあります。
SLMの活動にあたっては、サービス提供者と顧客の双方がコミュニケーションをとり、その進捗具合や問題点の洗い出し、解決を図っていくことが重要となります。

SLM運用会議
SLAで設定したサービスレベルが達成していることを確認し、未達成のときには改善方法を協議するための会合をSLM運用会議といいます。これは定期的に、重要な問題が発生したときは臨時的に開催されます。
通常は、受注者からSLA達成状況や未達成の対策案を発注者に説明する形式になります。このとき、受注者が被告、発注者が検事のような立場になると、適切な運営ができません。SLA達成のための協力体制であるとの認識が必要です。

項目やレベルの改訂
SLAは固定的なものではありません。情報システムの運用を続けている間に、重要な項目が欠けていることに気づいたり、当初は重要だと思った項目が、実際にはさほど重要ではないとわかることもあります。 取扱データ量の増大や他の情報システムの導入などにより、従来の設定レベルを保証することが困難になる場合もあります。ハードウェアの変更により、設定レベルが自動的に達成されるので、管理する必要がなくなる場合もあります。 これらの変化に応じて、SLAの対象項目やサービスレベルを改訂する必要があります。

成熟度による改訂
SLAに関する成熟度が低い状況のときに、ペナルティやインセンティブ規定をつけたSLAを作成しようとすると、発注者も受注者も自己主張をすることになり、なかなか合意に達しませんし、責任のなすりあいになってしまいます。 当初は、SLAについて双方の認識を確認して、サービスの項目やレベルでの合意をとること、SLM運用会議を設置して開催することがポイントになります。そして、相互の信頼関係が高まった段階で、SLAの見直しや改善を図るなど、発展させることが大切です。


c. サービスプロフィットチェーン

サービスプロフィットチェーン(Service Profit Chain)とは、へスケット(J.S.Heskett)、サッサー(W.E.Sasser,Jr.)らによって示されたサービスと従業員満足、顧客満足、企業利益の因果関係を表したモデルのこと。 従業員満足度(ES)がサービスレベルを高め、それが顧客満足度(CS)を高めることにつながり、最終的に企業利益を高める、とするモデル。

これは、顧客(カスタマーズカスタマー)に提供するサービス価値を高めることにより顧客ロイヤルティを高め、結果的に企業の収益を向上させる「好循環」を作ることを指し、その際には従業員満足が大きく影響するということを示しています。




     

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