経営戦略 - 20.技術戦略マネジメント - 1.技術開発戦略の立案 - 1.技術開発戦略

Last Update : April 22 2021 20:43:53

     

a. 技術開発戦略の目的と考え方

技術戦略とは、中長期的に市場での競争優位を獲得することを目的として、研究開発を強化すべき分野と縮小すべき分野を明確にし、今後の研究開発の方向性と重点投資分野を決定すること。

MOT 】( Management of Technology :技術経営)
人間の生産活動や社会活動を取り扱う学問分野である。産業界、または社会にあって成立する学問で、主にイノベーションの創出を目的とし、新しい技術を取り入れながら事業を行う企業・組織が、持続的発展のために、技術を含めて総合的に経営管理を行い、経済的価値を創出していくための戦略を立案・決定・実行するものである
技術版MBA。市場に新しい技術で新しいモノ(製品やサービス)を創出するMBAの進化形。研究開発、技術開発、製品化(サービス創出)・製品・製造(開発)という過程、販売やマーケティング、資金調達、人材育成、知財・特許戦略、企業協業などの考え方を学ぶ。

プロダクト・イノベーション
プロダクトイノベーションとは、これまでとは異なった独創的・先進的な新たな製品やサービスを生み出すことによって、競争力優位を図るものです。
プロダクトイノベーションは、企業の競争力の源泉の重要な一要素とされる。

  • 技術主導型・・・技術を中心に据えたプロダクトイノベーション
    独創的で高い技術をもとに革新的な新製品を開発するやり方。
  • ニーズ主導型・・・ユーザニーズに応えることを中心に据えたプロダクトイノベーション
    ニーズに合わせて開発するアプローチである。
  • 商品コンセプト型・・・技術主導型でもなく、ニーズ主導型でもない、商品コンセプトを中心に据えたプロダクトイノベーション
    まずコンセプトありきでそれに必要な技術、部品、素材を開発していくアプローチである。
  • 類似品型・・・先行する独創的な製品を研究し、後追いで開発することで、先行商品とは違う新しい物として売り出すプロダクトイノベーション。リーダー企業が差別化を図るチャレンジャー企業への対応としてよく見られる。

プロセス・イノベーション
ある製品やサービスのプロセス(製造工程、作業過程など)を変革することで、効率化による時間・原価低減や品質を高めるなどで競争力を高めるものです。

オープン・イノベーション
自社のアイデアだけでなく、他社・異業種・大学・個人などの外部のアイデアを取り入れ、有機的に結合させ、新たな価値を創造すること。

イノベーションのジレンマ
顧客ニーズを取り入れた新機能の付与や新技術による性能向上に注力することで、シェアを確保しようとする経営判断が失敗を招くという現象を指します。
イノベーションには、持続的イノベーションと破壊的イノベーションの2種類が存在し、この2種類のイノベーションにはそれぞれ特徴があります。

  • 持続的イノベーションとは、
    顧客のニーズや既存市場で求められている価値を改善・改良を目的とした持続的技術(持続技術)によって、実現するイノベーションを指します。持続的イノベーションで生み出された製品(商品)やサービスは、高機能・高価格という特徴があり、シェアの拡大と維持に役立ちます。
  • 破壊的イノベーションとは、
    低価格・低機能だが、破壊的技術(市場を一変する破壊技術)によって、実現された小型化と高い利便性が期待できるという特徴を持ちます。投入されたばかりの時期こそ売上・利益が立ちにくいですが、技術の向上により、一気にシェアを拡大できる可能性があります。

イノベーションのジレンマは、経済合理性に合った持続的イノベーションに集中しているが故に陥りやすく、破壊的イノベーションが起きてしまうと既存企業に莫大な損失や代償が発生すると考えられています。

リーンスタートアップ
コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを開発していくマネジメント手法のこと。
需要につながらない製品やサービスをただの思い込みから開発してしまう際に発生する「ムダ」を省くためのマネジメント手法だといわれています。
まず試作品を市場に投入し、実際の顧客の反応を試すのです。
そして顧客が示した反応から製品を改良して、確実に顧客に受け入れられる製品に組み直していきます。
MVP・・・小さなレベルの試作品のことで、「Minimum Viable Product」の頭文字を取ってMVPと呼ばれます。直訳すると「実用最小限の製品」であり、意訳すると、「顧客に価値提供できる最小限の機能を持った試作品」といった意味になります。

APIエコノミー
API(Application Programing Interface)とは、本来ソフトウェアから別のソフトウェア機能を呼び出して利用するための方法です。それをインターネットで提供されるサービスから他のサービス機能を利用できる仕組みにまで解釈を広げて使われるようになりました。
API提供企業は、他社が利用してくれることで、サービスの提供範囲が広がり、新規顧客が獲得できるようになります。利用企業も魅力的な機能を自前で開発しなくても、すぐに自社サービスに組み込めるようになります。このようなAPIをお互いに利用できるエコシステムを「APIエコノミー」と呼んでいます。
APIエコノミーは、企業がその自社サービスをAPIで公開し、外部に提供することによって、既成概念にとらわれないより大きなサービスを創出し、結果としてAPI公開企業のビジネスを成長させるエコ・システムでもあります。

R&D 】( Research and Development )
R&Dとは自社の事業に関する研究や新技術の開発、自社の競争力を高めるために必要な技術調査や技術開発といった活動を行うこと。
企業等の研究開発活動のこと

CVC 】( Corporate Venture Capital)
自社の資金でファンドを組成して、自社の事業に関連性のある企業(主にはスタートアップ企業になることが多い)に投資するものである。
ベンチャー企業は様々なリスクを抱えており、事業会社がシナジーを狙って投資をしても想定通りに事業が進捗しないことが多々あります。このように不確実性の高いベンチャー企業をはじめからM&Aによって自社内に取り込むより、CVCファンドで複数のベンチャー企業に出資することで、リスクを抑えることができます。


b. 価値創出の3要素

事業価値創造を得るには、Value Creation(技術・製品価値創造)、Value Delivery(価値実現プロセス)、Value Capture(事業評価獲得)の3要素を有機的に連動させるマネジメント力が要求される。

キャズム
導入期で成功した製品が、成長期において様々な制約条件に負けて溝(キャズム)に落ちで消えていくという現象。
顧客を5つに分類する。

  1. イノベーター(Innovator)
    市場の2.5%を占め、情報感度が高く、新商品をいち早く手に入れたいと考えている層です。
    イノベーターは、多少のリスクを冒してでも新しい商品にアクセスしたいと考えています。新しく、実績のない会社の商品を、時にはそれが未完成であっても採用するのがイノベーターの特徴です。技術そのものに興味を惹かれて購入します。
  2. アーリーアダプター(Early Adopters)
    市場の13.5%を占める、流行に敏感でそれを取り入れたいと考えている層です。
    初期市場を形成する上で重要な役割を果たします。
    アーリーアダプターは多少のリスクを冒してもいいと考えている点でイノベーターと共通項を持っていますが、アーリーアダプターは技術そのものに熱狂しているわけではなく、その技術を通して何かを成し遂げようとしている点でイノベーターと異なります。

  3. => アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間、ここにキャズムが存在します。

  4. アーリーマジョリティー(Early Majority)
    市場の34%を占め、すでに広まっているものを乗り遅れないように積極的に取り入れようとする層です。
    市場の主流の初期を占める人たちであり、その数の多さから最も利益を生み出す層と言っても過言ではありません。
    イノベーターやアーリーアダプターと違ってリスクに対する許容度が低く、安全策を取りながらも流行に乗り遅れまいとする点で特色があります。
  5. レイトマジョリティー(Late Majority)
    市場の34%を占める、新しい技術や商品に懐疑的な層です。
    レイトマジョリティは、新しい商品や技術を導入している割合が多数派であると確信しなければ購買意欲が掻き立てられません。
    保守的であるレイトマジョリティの攻略には、商品が普及するのを待たなくてはなりません。
  6. ラガート(Laggards)
    市場全体の約16%を占め、新しい商品や技術を嫌う層がこのラガードです。
    ラガートは商品が十分に浸透しなければ商品を買うことはありません。
    イノベーターやアーリーアダプターが新しい技術にすぐに飛びつき、アーリーマジョリティが技術を取り入れていち早く前進しようとし、レイトマジョリティが競合他社に乗り遅れないようにしている中で異色を放つのがこのラガードの存在です。

情報感度が高いアーリーアダプターまでは商品が売れやすいものの、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間には「キャズム」と呼ばれる深い溝があり、これを超えなければ市場を獲得できない。
キャズムが存在する理由は、イノベーターとアーリーアダプターの属する初期市場とその他の購買層が属するメインストリームの市場の求める価値が違うということです。
前者は、「新しさ」に価値を置いて商品を求める一方で、後者は「安心感」を求めて商品を購入するという違いがあります。


イノベーション経営を行なっていく上での3つの関門を「魔の川」、「死の谷」、「ダーウィンの海」とよぷ。

魔の川 】(Devil River)
魔の川とは、一つの研究開発プロジェクトが基礎的な研究(Research)から出発して、製品化を目指す開発(Development)段階へと進めるかどうかの関門のことである。この関門を乗り越えられずに、単に研究で終わって終結を迎えるプロジェクトも実際には多い。

死の谷 】(Valley of Death)
死の谷とは、開発段階へと進んだプロジェクトが、事業化段階へ進めるかどうかの関門である。この関門を乗り越えられずに終わるプロジェクトも多い。そこで死んでしまうことから、死の谷と呼ばれる。事業化するということは、それまでの開発段階と比べて資源投入の規模は一ケタ以上大きくなることが多い。たとえば、生産ラインの確保や流通チャネルの用意である。

ダーウィンの海 】(Darwinian Sea)
ダーウィンの海とは、事業化されて市場に出された製品やサービスが、他企業との競争や真の顧客の受容という荒波にもまれる関門を指す。ここで、事業化したプロジェクトの企業としての成否が具体的に決まる。ダーウィンが自然淘汰を進化の本質といったことを受けて、その淘汰が起きる市場をダーウィンの海と表現している。


c. 技術開発戦略の立案

技術開発戦略では、市場の製品動向や技術動向などを分析し、自社にとって有用な競争力のある技術(コア技術)を確認し、これに基づく技術研究を行う。
自社だけでは十分に技術を生かしきれない場合は、外部の企業や組織と連携して共同研究を行うことも検討する。
外部から技術獲得する手法には以下のようなものがある。

  • 技術供与
    他の企業に自社の技術を有償または無償で提供すること。
    技術供与は、片方からのみ技術を提供する。
  • 技術提携
    お互いの企業が相互に自社の持つ技術を提供しあうこと。他方の企業に、有償または無償で技術を提供したり、共同で新規の技術を開発したりすること。
  • 技術移転
    自社の持つ技術を他へ移すこと
  • 産学官連携
    企業と大学と官庁などが技術開発で相互に連携していくこと。

技術開発をおこなう場合に、すべての技術を独自の技術にしてしまうと、今までの技術との連携が取れなくなる場合があり、良い技術であっても普及できなくなってしまうことが考えられる。 そのため、できるだけ国際的な標準や国内標準の技術は、そのまま使用し、その技術に独自技術を組み合わせて競争力を高めて、他社との差別化を図ることが重要。 この標準技術を活用していく方法を標準化戦略という。

PoC 】( Proof of Concept : 概念実証)
新しいアイディアなどを実際に試行し、企業として投資するかしないか判断をすることです。実証実験も同じような意味です。

PoV 】( Proof of Value : 価値実証)
システムやコンセプトに投資をする価値があるのかどうかの検証をすること。
PoCがコンセプトやシステムによる効率化実現可能性の証明であるとすると、PoVは新しいコンセプトの価値、システム化による費用対効果を検証するもので、PoCとPoVは企業がシステム投資の意思決定をする際に、どちら必要な要素です。

TLO 】( Technology Licensing Organization )
大学や国立研究所の研究成果を企業に技術移転して事業化を目指す機関。事業化によって得た収入を新たな研究資金に充てることを目指す。
1998年8月に大学等技術移転促進法(TLO法「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」)が施行され、国もTLO(技術移転機関)の設立を支援している。
TLOの主な役割は、大学や研究所が開発した技術などを特許化し、企業にライセンスを供与すること。民間企業に新規事業を創出し、その収益の一部を特許料収入として大学の新たな研究資金に充てる。このほか、「国などが募集する公募型の共同研究に応募したい」「大学の研究者と技術的な課題を解決したい」といった民間企業からの依頼に対して、適切な研究者を紹介することもTLOの役割。いわば大学と産業界の橋渡し役です。
TLOには、「承認TLO」と「認定TLO」の2種類がある。
承認TLOは、個人が持つ特許を取り扱うことが特徴で、経済産業省と文部科学省がTLO法に基づき事業計画を承認する。現在、37の法人や団体が承認TLOとなっている。1つの大学で設置したTLOのほかに、規模の小さい大学が連携してTLOを設置しているケースもある。
これに対して認定TLOは、国立大学や国の試験研究機関が持つ特許を取り扱う。研究機関を管轄する省庁が認定する。例えば、厚生労働省の認定TLOである「ヒューマンサイエンス技術移転センター」は、同省の国立研究所の技術を扱う。
TLOの認定を受けると、出願する特許料の減免や助成金の交付などが受られるメリットがある。


  [ 例題 ] 
  1. 平成29年度秋期 問70  コア技術
  2. 平成23年度秋期 問71  プロダクトイノベーション
  3. 平成21年度春期 問71  TLO


     

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